女が死ぬと鶯になる。横笛のお話


むかしむかし、平家一門が権勢を誇っていたころのお話です。

平重盛の家臣、北面の武士である斉藤滝口時頼は、建礼門院に仕える

横笛の舞に魅せられ、逢瀬を重ねるうちに二人は恋に落ちてしまいました。

ところが、平家一門の武士と白拍子の身分の違いをタテに時頼の父茂頼は

二人の仲を許しませんでした。
時頼は悩み続けました。ついに嵯峨野の往生院へこもり出家してしまいました。

一方、横笛は時頼が恋しくてなりません。人目を忍んで嵯峨野の時頼に会いに行きました。

横笛は許されない恋の悲しみのあまり、机の上に厚い涙をこぼし、

漆の色が悪くなってしまうのでした。
こんな横笛の姿に耐えられなくなった時頼は、ついに女人禁制の高野山へ逃げて

大円院にこもりました。さすがの横笛もとうとうあきらめ、法華寺の尼さんになりました。
横笛は高野山の麓の天野の里に庵を結び、再会の日を待っていました。

風の便りに横笛のことを知った滝口入道は、ふと哀れに思い「そるまでは うらみしものを

梓ゆみ まことの道にいるぞ嬉しき」と掛け言葉のまじった歌をおくりました。

すると横笛は「そるとても なにかうらみん 梓弓 ひきとどむべき 心ならなば」と

歌を返してきました。

天野の村人に見取られながら、横笛は19歳の春に死んでしまいました。


横笛の病の床に「高野山 名をだに知らで 過ぎぬべし うきよよそなる わが身なりせば」

横笛は「やよや君 死すれば登る 高野山 恋もぼだいの たねとこそなれ」と応えました。


滝口入道が、ある日のこと縁側に腰をおろして埋めの枝を眺めていると、どこからともなく

一羽の鶯が飛んできて、その枝にとまりました。鶯は悲しい声で鳴き続けた後、庭の井戸に

落ちて死んでしまいました。

この鶯こそ、横笛の化身だったのです。滝口入道の恋しさあまり、鶯になって女人禁制

の高野山までやってきたのでしょう。

高野山の大円院には井戸と梅の木が残されています。

天野には村人が哀れんで弔った「横笛の恋塚」が、

そして、横笛が待ち続けた「地蔵堂」が町石道の天野神田に建っています。

 横笛の恋塚と地蔵堂 http://www16.ocn.ne.jp/~myoji/amanosannsaki8.htm

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